IT時代の最先端を行く
VR/AR研究者

IT時代の最先端を行く VR/ARの研究・教育・社会実装

板宮 朋基 (96回生)

VR≠仮想現実?

VR(バーチャル・リアリティ)やAR(拡張現実)という言葉をみなさん見聞きしたことがあると思います。2016年にソニーからPlayStation® VRが発売され、お茶の間にも普及し始めました。同じく2016年に任天堂からポケモンGOがリリースされ、一大ブームになりました。ポケモンGOには簡易AR機能があり、ARという言葉も一般的になって来ました。一般的にVRは「仮想現実」と言われますが、これは誤訳でして、The American HeritageDictionaryによると、Virtualは「みかけや形は原物そのものではないが,本質的あるいは効果としては現実であり原物であること」であり、仮想という意味はありません。バーチャルの対義語はノミナル(nominal)、「名目上の」という言葉であり、バーチャルは決してリアル(real)の対義語ではありません。日本語で「バーチャル」の意味をうまく表す言葉はないのですが、VRは「人工現実感」と訳すのが説明としては正しいのではと思います。

大学教員・研究者として

私は現在、愛知工科大学工学部情報メディア学科の教授として、VR/ARシステムの研究・開発と社会実装を行っています。教育のウェイトも大きく、研究室に配属される学生約15名の指尊や週6コマの講義に奮闘しています。学生対応以外にも、各種会議や入試・オープンキャンパスの業務、共同研究先の他大学や企業との折衝、学外での講演や展示など、多種多様な仕事を同時並行でこなしていく日々です。自分のための研究時間がなかなか取れないのが悩みどころです。最近第二子が生まれ、子どもの世話や家事に割く時閻も益々増え、ワークライフバランスをうまく取る必要性も実感しています。良い研究・教育を行うためには、安定した家庭生活を維持することが第一と考えています。

VR/ARの防災教育への応用

VR/ARはゲームやエンタテインメント分野以外にも、設計・作業支援など幅広い分野で社会実装が進んでいます。私は主に防災と医寮分野に関わっています。最近は大手自動車メーカーとの共同研究も行っています。自然災害の多い日本において、防災教育活動を広めることは大きな社会課題となっています。VRによる「津波体験ドライビングシミュレーター」やAR災害疑似体験アプリ「Disaster Scope®」を開発し、社会実装を進めています。もともと防災は専門分野ではなく、大学時代にはCGや3Dモデルの研究をしていて、医学部と共同で手術支援シミュレーターを開発していました。こうした技術を防災に使えないかと考えたのは東日本大震災がきっかけです。あの震災では、日頃からの防災教育が功を奏し、児童が津波から主体的に避難してほとんど無事だった小学校と、逃げ遅れて多くの犠牲者が出た小学校がありました。こうした惨事が二度と起きないように、IT技術を役立てたいと考えました。2014年に愛知に赴任しましたが、OculusRiftなどのVRデバイスが安価に入手できるようになり、ソフトも容易に開発可能になりました。また、スマートフォンの高性能化により、ARも気軽に体験できるようになりました。そこで津波・洪水や火災による煙をリアルにバーチャル体験できるシステムを開発したところ、多くの反職を得ました。防災教育にVR/ARを活用する事例はまだ珍しく、社会のニーズともうまくマッチしたため、マスコミにも数多く取り上げられました。ニュース番組の企画で女優の桐谷美玲さんが研究室に取材に訪れ、北野武さんや石原良純さんなどがTV番組で体験してくれました。全国の自治体や学校から依頼が入り、防災訓練に学生たちと多い時は年間30回以上出向いて、ARを活用した教育プログラムを実践しています。各所で従来の訓練の際とはまったく違った反応がありました。子どもたちはARで災害の怖さを実感してくれて、日頃から意識して備える大切さを実感し、具体的な行動に結びつけてくれました。これまで「災害11他人事」だった意識が、「我が事」として真剣に受け止められるようになりました。最近は海外からも問い合わせがあり、オランダやサモアなどでも活用されています。NTTドコモと連携協定を締結しており、本格的な社会実装を進めていきます。

母校での思い出

早稲田中高では友人たちに恵まれました。物理部に所属していましたが、化学部や修学旅行の報道委員会のメンバーとも仲良くしていました。外科医志望で医学部を目指していましたが、体調を崩すなどして浪人を繰り返し、父親が経営していたIT企業を手伝うなどして、大学に行かないまま25歳になっていました。いつかは進学したいと思っていたところ、同期の星野崇宏君(現慶應義塾大学経済学部教授)に慶大SFCのAO入試のことを教えてもらい、挑戦したところ合格できました。その後、博土課程まで進み、今に至ります。外科医にはなれませんでしたが、医学部との共同研究で手術室に入って自分が開発したARシステムを臨床応用し、医寮の進歩にわずかですが貢献でき、夢は叶ったとも言えます。今の私があるのは早高の仲間や先生方のお陰で、日々感謝しています。

プロフィール

1988年 早稲田中学入学

2000年 慶應義塾大学総合政策学部入学

2004年 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科に入学

2010年 博士号(政策・メディア)を取得

2014年 愛知工科大学工学部准教授に就任

2018年 愛知工科大学工学部教授に就任

2020年 神奈川歯科大学歯学部教授に就任

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