原宿で点てる一杯、
その原点は
早稲田中高で過ごした日々

原宿で点てる一杯、その原点は早稲田中高で過ごした日々にある

井上 直駿 (120回生)

原宿の街角で、注文ごとに抹茶を点てる。井上直駿さんがMBAの同期と営むテイクアウトカフェ「maffe stand」は、猫をかたどった和菓子や遊び心のある意匠とともに、見た目の華やかさに寄りかかるのではなく、まず「きちんとおいしい一杯」を目指す店です。青山学院大学大学院国際マネジメント研究科を修了したばかりの井上さんは、店づくりそのものを自ら学び、考え、育てています。

今回お話を伺って見えてきたのは、現在の挑戦が突然生まれたものではないということでした。歴史研究部で好きなことを掘り下げ、仲間と草野球をゼロから始め、自由のなかで自分の輪郭を育てた早稲田中高での六年間。その積み重ねが、いま原宿で新しい店を立ち上げる行動力と、仕事に向き合う姿勢へと、まっすぐにつながっていました。

好きなことを、好きなだけ深められた六年間

井上さんが振り返る早稲田中高は、何より「個性を自然に伸ばせる場所」でした。ご自身では「それなりに真面目な生徒だった」と語りますが、印象に残っているのは窮屈さよりものびのびと過ごした感覚です。細かな規則で縛るのではなく、生徒の自主性に委ねる空気があり、その自由がとても心地よかったといいます。

その象徴が、六年間打ち込んだ歴史研究部でした。日々の活動に加え、合宿や文化祭の準備を通して、思う存分歴史を探究できたことが忘れられないそうです。中高一貫だからこそ、短い期間で成果を求めるのではなく、長い時間をかけて好きなものに向き合えた。その経験は、後になって振り返るほど大きな意味を持っていたようです。

もう一つの大切な思い出が、中学二年頃から仲間内で続けていた草野球でした。正式な部や公認団体ではなく、非公式サークルです。最初は十人ほどで、キャッチャーがいなかったり外野が一人しかいなかったりすることもあったそうですが、それでも十分に楽しかった。与えられた場で何かをこなすのではなく、自分たちで面白いことを立ち上げる。その感覚が、すでにこの頃から井上さんの中に育っていました。

原宿で磨く、「きちんとおいしい抹茶」

現在、井上さんが力を注いでいるのは、原宿のテイクアウトカフェ「maffe stand」の運営です。MBAの同期と立ち上げた店で、抹茶と和菓子を軸にしながら、デザインには麻雀のモチーフも忍ばせるなど、発想の切り口にも井上さんらしい遊び心があります。ただ、その店の核にあるのは話題性ではなく、味と所作へのこだわりです。

大学時代、井上さんは茶道サークルに所属していました。そこで学んだのは、抹茶の味だけではありません。点て方ひとつで一杯の印象が大きく変わることも、身をもって知りました。だからこそ店では、注文ごとに目の前で抹茶を点て、スタッフにもきちんとした所作を伝えています。お客様が喜ぶのは、単に抹茶味の飲み物を受け取るからではなく、手間を惜しまず一杯を仕上げる時間ごと味わえるからなのでしょう。

開業もまた、机上の計画だけで進んだわけではありません。自己資金をもとにしながら、ご家族が看板業を営んでいることや、周囲の内装関係のつながりも生かし、抑えられるところは徹底して抑えたといいます。開店して終わりではなく、商品や打ち出し方は今も試行錯誤の最中です。さらに別事業として、スーパーフード「モリンガ」の普及にも取り組み始めています。食にまつわる可能性を、自分の手で少しずつ広げているところです。

自由と自律が、いまの仕事の芯になった

早稲田中高での経験と現在の仕事は、単に「昔から好きだったことを続けています」という話ではありません。むしろ共通しているのは、自分で面白さを見つけ、自分で形にする姿勢です。歴研で好きなテーマを掘り下げたことも、草野球を仲間と始めたことも、いま店を立ち上げて育てていることも、根っこは同じです。井上さん自身、“ゼロから好きなことを企画してやる感覚”が、今の土台になっていると語ります。

同時に、早稲田中高が井上さんに残したのはそれだけではありません。「早稲田中高生としての自覚を持って行動する」という感覚も、深く身についているそうです。細かな規則で管理されるのではなく、自分で判断し、自分で責任を引き受ける。その前提があったからこそ、いまも安易な近道や卑怯なやり方には向かわない。事業を営むうえでの倫理観の土台として、「誠の心」が生きているのです。

もう一つ、井上さんが繰り返し口にしたのが、同期の存在でした。カフェのプレオープンには数えきれないほどの同期が足を運んでくれたといいます。そのことが大きな励みになりました。卒業して終わる関係ではなく、節目ごとに支え合えるつながりがある。自由な校風のなかで築いた人間関係もまた、現在の挑戦を支える大切な土台になっています。

後輩たちへ――「好きにやる」を大事にしてほしい

在校生へのメッセージとして井上さんが挙げたのは、早稲田中高の環境を「存分に生かしてほしい」ということでした。個性を伸ばせる学校だからこそ、周囲に合わせる前に、まず自分が何に惹かれるのかを大切にしてほしい。「好きにやりたいことをやってほしい」という言葉には、単なる気楽さではなく、自分の興味に責任を持って向き合ってほしいという願いが込められています。

そして、同期をはじめとする仲間との縁も、どうか大切にしてほしいといいます。いま夢中になっていることが、将来どこにつながるかは分かりません。けれど、歴史を掘り下げた時間も、人数の足りない草野球も、後になってみれば確かに今の仕事へとつながっていた。自由のある学校で過ごす六年間は、何かを早く決めるためだけの時間ではなく、自分の輪郭を育てる時間でもあります。そのことを、井上さんの歩みが静かに教えてくれます。

プロフィール

1999年 生まれ

2012年 早稲田中学校入学

2018年 早稲田高等学校卒業、早稲田大学文学部入学

2022年 早稲田大学文学部卒業。大手コンビニエンスストア本部に就職

2024年 青山学院大学大学院国際マネジメント研究科入学。

2025年 株式会社THREE EQUAL ONE代表取締役に就任。原宿にテイクアウトカフェ「maffe stand 」を開業。

2026年 青山学院大学大学院国際マネジメント研究科修了。

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